障害者手帳がなくても大丈夫?就労移行支援を利用するための条件と手続き
「働きたいけれど、うまく続けられない」「支援を受けたいけれど障害者手帳を持っていない」——そうした不安を抱えている方は少なくありません。とりわけ発達障害やうつ病、適応障害といった目に見えにくい疾患では、手帳の取得に至らないまま日常生活や就労に困難を感じているケースも多く見受けられます。
本記事では、「就労移行支援 手帳なし」というキーワードに注目し、障害者手帳を持っていない方でも就労移行支援を利用できるのか、その条件や手続き、支援を受ける上での実務的な注意点までを、制度の仕組みに基づいて専門的に解説していきます。

就労移行支援とは何か:制度の基礎理解
就労移行支援は、障害のある方が一般就労を目指すための訓練やサポートを受けることができる福祉サービスです。障害者総合支援法に基づく訓練等給付のひとつであり、最長2年間の利用が可能です。
サービス内容には、職業準備性の向上、ビジネスマナーの習得、就職活動支援、職場定着のためのフォローなどが含まれ、利用者は通所を通じて段階的に「働く力」を身につけていきます。
多くの方が「障害者手帳が必要」と誤解しがちですが、制度上は「障害者であると市区町村が認めた者」であれば利用可能とされており、手帳の有無そのものは必須条件ではありません。重要なのは「支援の必要性」が客観的に認められるかどうかです。
手帳がなくても利用できる条件とは?
障害者手帳がなくても就労移行支援を利用できるケースは、実際に多く存在します。必要とされるのは、「医師の診断書」や「意見書」によって、障害の存在や支援の必要性が確認できることです。特に以下のような状況であれば、手帳がなくてもサービス利用が可能です。
- 精神科・心療内科などで継続的な治療を受けている
- 発達障害の診断があり、就労に困難が生じている
- 身体障害の程度が軽く、手帳交付の基準を満たさないが支援が必要
- 学校や医療機関、相談支援機関からの紹介がある
自治体(市区町村)の障がい福祉課などで、サービス等利用計画の作成と支給決定を受けることで、手帳の有無にかかわらず就労移行支援を利用できる場合があります。
医師の診断書と意見書の違いと役割
手帳がない場合、就労移行支援の利用において特に重視されるのが「医師の診断書」または「意見書」です。この2つは似て非なるもので、それぞれ以下のような役割を担います。
- 診断書:現在の診断名や病状、就労や通所に関する制限事項などが記載される。サービスの必要性を判断するうえで重要。
- 意見書:就労移行支援の利用を想定して、支援の必要性や内容について医師の見解が示される文書。自治体が支給決定を行う際の判断材料となる。
実務上、これらの書類を用意するためには、主治医に対して就労移行支援を利用したい旨を事前に説明しておくことが必要です。受診の際には、現在抱えている困難や希望する働き方について、できる限り具体的に伝えることがポイントです。
利用までの手続きと自治体とのやりとり
手帳がない状態で就労移行支援を利用する場合でも、基本的な流れは手帳保持者とほぼ同じです。以下の手順を踏むことになります。
- 主治医に相談し、診断書または意見書を取得
- お住まいの市区町村の障がい福祉窓口で相談(障害福祉サービスの申請)
- サービス等利用計画案の作成(相談支援専門員の関与が基本)
- 市区町村による審査・支給決定
- 利用契約・通所開始
この一連のプロセスには、医療機関・相談支援・行政との連携が必要となるため、申請から利用開始までに1〜2か月程度の時間を要することがあります。スムーズに進めるためには、見学・体験を希望する通所先と早めに連携を取り、計画的に準備を進めることが重要です。
手帳を持たないことで起こりうる注意点
手帳がなくてもサービスの利用は可能ですが、いくつか注意すべき点も存在します。
- 障害者雇用枠での就職が難しい
手帳がある場合、法定雇用率の対象として企業に雇用される(障害者枠採用)ことが可能ですが、手帳がないと一般枠での応募が中心となるため、配慮を受けにくくなる可能性があります。 - 福祉サービスの一部で手帳が求められる場合がある
交通費補助や税控除など、手帳を保持していることが条件となる支援策もあるため、必要に応じて取得を検討する余地があります。 - 社会的理解を得るために明文化された証明が必要となることもある
職場や行政手続きなどにおいて、「手帳がないと説明が通りづらい」という場面が出てくることもあります。
これらの点を踏まえつつ、将来的に手帳取得を視野に入れるかどうかは、医師や支援者と相談しながら判断していくことが望まれます。
手帳の有無に関係なく支援を受けるべき理由
就労移行支援の本質は、「支援が必要な人が、安心して働けるように整えること」にあります。そのため、障害者手帳の有無にかかわらず、就労に課題を感じているのであれば、まずは相談し、利用を検討することは非常に有効です。
特に以下のような方は、支援によって大きな変化を得られる可能性があります。
- 転職を繰り返しており、自信を失っている
- 職場での人間関係や業務遂行に強いストレスを感じる
- 精神的な波が大きく、安定して働くことが難しい
- 自己管理やスケジュール調整に困難を感じている
支援を受けることは「甘え」ではなく、自立と社会参加を実現するための合理的な手段です。制度や書類上の条件に縛られすぎず、自分に必要な支援を柔軟に選択することが、回復と就労の両立を可能にする鍵となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 障害者手帳がないと、就労移行支援は利用できないのですか?
A. いいえ。障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書や意見書があれば就労移行支援の利用は可能です。市区町村が「支援の必要性あり」と判断すれば、正式な支給決定を受けて利用することができます。
Q2. 手帳がない場合、就職活動に不利になりますか?
A. 一部の障害者雇用枠(いわゆる法定雇用枠)では手帳の提示が求められますが、一般雇用枠や個別配慮が可能な企業もあります。また、配慮の要否を伝える際は診断書などを活用することができます。
Q3. 医師の診断書はどんな内容が書かれていればいいのですか?
A. 障害名(例:うつ病、発達障害など)、現在の症状、就労に関する制限事項、就労移行支援の利用に対する医師の見解などが記載されていることが望まれます。詳細は主治医と相談しながら進めてください。