身近な人がすぐ嘘をつく…“その場しのぎ”の背景にある心の病とは?
嘘をつくのは、性格の問題だけではないかもしれません
目次
「どうしてあの人はすぐに嘘をつくのだろう」「またごまかしてる…」
そんなふうに感じる人が、身近にいませんか?
とくに、すぐに取り繕うような“その場しのぎの嘘”が繰り返されると、周囲は困惑し、不信感を抱くことが多くなります。
しかし、その嘘は「悪気のある嘘」ではなく、「本人の心の苦しさ」が背景にある場合があります。
中には、発達障害や適応障害、あるいはトラウマなど、心の状態に関係するものも少なくありません。
今回は、繰り返される“その場しのぎの嘘”の背景にある可能性について掘り下げ、その理解と向き合い方を考えていきます。

その場しのぎの嘘とは?特徴とよくある行動パターン
“その場しのぎの嘘”とは、目の前のトラブルや不快な状況を避けるために、とっさに出る嘘のことです。
例えば、次のような言動が挙げられます。
- 遅刻の理由を毎回変える(電車が止まった、体調が悪かった、家族の用事など)
- できていない業務を「終わってます」と報告してしまう
- 注意されると、とっさに言い訳や他人のせいにする
- 忘れ物や失敗を隠すために嘘をつく
これらの言動は、周囲に不信感を与えたり、関係性にヒビを入れたりすることが多いため、「嘘をつく人」としてマイナスのレッテルを貼られがちです。
しかし、本人の内面には「怒られたくない」「責められるのが怖い」「失敗がバレると自己否定された気がする」など、強い不安や自己防衛の感情がある場合があります。
嘘を繰り返す背景にある“心の病”の可能性
「すぐ嘘をつくのは性格のせい」と決めつけてしまうと、問題の本質を見落としてしまいます。
実際には、以下のような心理的・精神的な背景がある場合があります。
発達障害(とくにADHD)
ADHDの特性を持つ人は、「うっかり忘れる」「先延ばしにする」「集中が続かない」といった傾向があります。
その結果、物事が予定通りに進まなかったり、責任を果たせなかったりする場面が増えます。
責められることを避けるために、「忘れていないふりをする」「できたことにする」など、その場のごまかしとして嘘をつくことがあります。
本人としても「まずいことをした」と理解していて、罪悪感を持っている場合も少なくありません。
適応障害・うつ状態
職場や学校などの環境に適応できず、ストレスが大きくなっていると、自己評価が著しく下がったり、問題を正面から受け止める力が弱くなったりします。
結果として、現実から目を背けたくなり、「できていないこと」を「できている」と言ってしまうなど、嘘が口をついて出ることがあります。
トラウマや過去の否定体験
過去に強く責められた経験がある人(たとえば家庭や学校で怒られてばかりいたなど)は、責められること自体に強い恐怖や拒否感を持っています。
そのため、自分を守るために「嘘をついてでも逃げよう」とする行動が習慣になってしまうことがあります。
嘘を責める前に理解しておきたい“防衛反応”としての意味
その場しのぎの嘘は、意識的な“だまし”とは異なり、「自分を守るための反応」であることが多くあります。
人は強いストレスやプレッシャーを感じると、現実を正しく受け止めるよりも、自己防衛の方が優先されます。
とくに自己肯定感が低い人ほど、「失敗=価値のない自分」と捉えてしまい、失敗を認めることが怖くてたまらなくなります。
結果として、「今だけ逃げたい」「今だけごまかしたい」という思いが、無意識に嘘という形で現れるのです。
このようなケースでは、責めても改善されることは少なく、むしろ状況が悪化することすらあります。
身近な人の“嘘”にどう向き合えばいい?
では、家族や同僚など、身近な人が嘘を繰り返しているとき、私たちはどう接すればよいのでしょうか。
ポイントは「嘘を責めないこと」「本人の不安を受け止めること」です。
① 嘘そのものより、背景を探る
なぜそのような嘘をついたのか?
失敗を隠したかったのか、責められるのが怖かったのか…
原因に目を向けることで、単なる「うそつき」ではなく、「助けを求めている人」として理解できます。
② 安全な関係性を築く
「失敗しても大丈夫」「話してくれてありがとう」と伝えることで、嘘をつかなくても安心できる環境を少しずつつくることが大切です。
③ 本人が自分の行動に気づけるサポートを
「本当に困ってるなら、一緒に解決策を考えよう」「できてないことがあるなら、手伝えるかも」と声をかけ、責任を押しつけるのではなく、共に考える姿勢を示すことで、本人の安心感と自己理解が深まります。
“その場しのぎ”に苦しむのは、本人自身かもしれません
繰り返される嘘に振り回され、怒りや不信感を持つのは自然な感情です。
でも、実は一番苦しんでいるのは本人自身である場合が多くあります。
「なんでまた嘘をついてしまったんだろう」「バレたときの自分はどう見られるだろう」
そんな不安と罪悪感を抱えながら、どうしていいか分からず立ち止まっている人もいます。
とくに心の不調や発達特性が背景にある場合、自力で改善するのは難しく、誰かの理解や支援が必要になります。
嘘の奥にある“生きづらさ”を一緒に整える支援もあります
その場しのぎの嘘に困っているのが自分自身であっても、また家族や近しい人であっても、「病気だから仕方ない」で終わらせず、前向きに向き合うことはできます。
たとえば、就労に向けたステップとして、生活リズムを整えたり、自己理解を深めたり、ストレス対処法を学んだりする支援を受けることも可能です。
また、同じように生きづらさを感じている人と出会い、対話する中で、自分自身の癖や困りごとに気づいていくこともあります。
「うそをつかずにいられる自分」に変わっていくには、安心できる環境と、小さな成功体験の積み重ねが必要です。
まとめ
“その場しのぎの嘘”は、表面的には「誠実でない行為」に見えるかもしれません。
しかし、その奥には「責められるのが怖い」「失敗を認めることができない」といった深い不安や、心の苦しさが隠れていることも多いのです。
もし、あなた自身やあなたの大切な人が、繰り返し嘘をついてしまっているなら、それは“甘え”や“怠け”ではなく、「心が助けを求めているサイン」かもしれません。
まずは、責めるよりも理解から。
そして必要に応じて、安心して自分のことを話せる場や、支援につながる選択肢を検討してみてください。
「生きづらさ」を一緒に整理し、少しずつ自分らしい働き方や暮らし方を見つけていく道も、きっとあります。