物覚えの悪さは体質?それとも病気?——仕事が覚えられないときに考えたいこと
職場で「また同じことを聞いてしまった」「教わったばかりなのにすぐ忘れてしまう」といった経験を重ね、「自分は仕事が覚えられない」と悩む方は少なくありません。周囲と比較して劣等感を抱いたり、上司や同僚の目が気になったりする中で、「これは自分の体質なのか、それとも何かの病気なのか」と不安になるケースも多いでしょう。
この記事では、「仕事が覚えられない」背景にある可能性について、医学的・心理的な観点から考えられる原因を丁寧に解説します。また、適切な支援や環境を得るための第一歩についてもご紹介します。

単なる「物覚えの悪さ」と病的な記憶障害の違いとは
目次
まず確認したいのは、「物覚えが悪い」と感じる状態が、日常的な範囲内の個人差なのか、それとも医学的に何らかの病気や障害が関係している可能性があるのか、という点です。
個人差としての物覚えの悪さは、集中力や睡眠、ストレスなどの要因によって一時的に起こることがあります。たとえば、寝不足や疲労、心配事があると、注意力が低下し、結果として記憶の定着が悪くなることはよくあります。
一方で、日常生活や仕事に継続的な支障をきたしており、改善の見通しが立たない場合は、何らかの認知機能障害や発達障害、精神疾患が背景にある可能性もあります。このようなケースでは、専門機関での相談や診断を受けることが重要です。
発達障害による記憶・理解の困難
「仕事が覚えられない」という悩みの背景には、発達障害が関与していることがあります。成人期に入ってから診断されるケースも増えており、自分の特性に気づかないまま苦しんでいる人も少なくありません。
たとえば、以下のような障害が関連することがあります。
- 注意欠如・多動症(ADHD):注意が散漫になりやすく、指示を聞き逃したり、情報を定着させづらい傾向があります。
- 自閉スペクトラム症(ASD):抽象的な指示や曖昧な言葉の理解が苦手で、職場でのコミュニケーションミスが起きやすくなります。
- 学習障害(LD):読む・書く・計算するなど特定の認知機能に困難があり、マニュアルやメモを活用しづらいこともあります。
これらの特性は「やる気」や「努力」でカバーできるものではなく、周囲の理解や業務の工夫によって、はじめて適応が可能になるものです。
うつ病や適応障害などの精神疾患の影響
精神的なストレスや気分の落ち込みも、記憶力や集中力に大きく影響を及ぼします。特にうつ病や適応障害などを抱えている場合、「頭が働かない」「集中できない」「何度も同じミスをする」といった症状が現れることがあります。
うつ病の代表的な症状としては以下が挙げられます。
- 思考や判断が鈍くなる
- 新しい情報を覚えられない
- 仕事の段取りができなくなる
- 自分を責める思考が強まる
このような状態が続くと、周囲とのコミュニケーションが難しくなり、自己肯定感の低下や孤立感を深めてしまう可能性があります。重要なのは、「症状」そのものがあなたの本来の能力を表しているわけではない、ということです。
認知機能の低下や神経疾患の可能性
稀ではありますが、脳の機能障害が背景にある場合も考慮する必要があります。特に中高年以降で急激に物覚えが悪くなったと感じる場合は、以下のような疾患の可能性も視野に入れるべきです。
- 軽度認知障害(MCI)
- アルツハイマー型認知症の初期段階
- 脳血管性障害
- 頭部外傷後の記憶障害
また、脳機能への影響を及ぼす疾患(甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、睡眠時無呼吸症候群など)が間接的に記憶力低下を招くこともあります。身体的な要因も含めて広く検討する必要があります。
医療機関や支援機関への相談をためらわないこと
「病気かもしれない」と感じたとき、多くの人がまずネットで検索をし、情報を得ようとします。それ自体は自然な行動ですが、個別の状態を正確に判断するには限界があります。
困りごとが継続している場合は、以下のような専門機関への相談が有効です。
- 精神科・心療内科
- 発達障害専門外来
- 神経内科
- 公的な福祉・障害者支援窓口
診断がつくことによって、自分に合った支援制度や職場環境を整えることが可能になります。また、医師の意見書や障害者手帳の取得によって、就労時の配慮やサポートを受けやすくなる場合もあります。
「覚えられない自分」を責めず、できる工夫から始めよう
「仕事を覚えられない自分」に対して、責める気持ちが強くなると、さらなる不安や緊張を招き、ますますパフォーマンスが低下するという悪循環に陥ってしまいます。
そうしたときこそ、下記のような工夫を取り入れてみてください。
- 指示や手順を「書き出して見える化」する
- 業務のルーチン化を意識する
- 休憩を定期的に取り、集中力をリセットする
- わからないことを早めに質問する
- 苦手な業務を他者と調整・分担する
また、「自分はこういう特性がある」「こういうときに困りやすい」といった自己理解を深めることは、他者とのコミュニケーションを円滑にするうえでも非常に役立ちます。
おわりに|不安を放置せず、「知ること」から始めよう
物覚えの悪さが気になったとき、それが一時的なものなのか、何らかの背景があるのかを見極めることは、今後の働き方を考える上で非常に重要です。
そして、病気かどうかを判断するのは、あなた自身ではなく、専門家です。
不安を一人で抱えず、まずは相談できる窓口を探すこと。そこから、あなたにとって無理のない働き方や支援のかたちが見えてくるはずです。
「覚えられないからダメなんだ」と思う必要はありません。
必要なのは、「覚えられない自分」を理解し、支援や工夫によって乗り越えていくための正しい情報です。
あなたの働く力は、きっと失われていません。適切なサポートと環境があれば、その力を発揮できる場面は、必ず見つかります。
【チェックリスト】仕事が覚えられないとき、病気や障害の可能性を考えるサイン
以下の項目にいくつ当てはまるか、チェックしてみてください。
該当する項目が多い場合は、一度専門機関へ相談してみることをおすすめします。
- □ 一度教わった内容を、何度も繰り返し聞いてしまう
- □ マニュアルやメモを読んでも頭に入りにくい
- □ 注意がそれやすく、話を最後まで聞けないことがある
- □ 複数の作業を同時に進めると混乱してしまう
- □ 指示や会話の内容をすぐに忘れてしまう
- □ 寝ても疲れが取れず、日中にぼんやりしてしまう
- □ 緊張や不安で頭が真っ白になりやすい
- □ 「何度言っても覚えないね」と言われて傷ついたことがある
- □ 周囲に迷惑をかけている気がして仕事が怖くなる
- □ 自分の物覚えの悪さが「努力不足」ではないかと自分を責めてしまう
チェックが多かった方へ
チェックが 3つ以上 あった方は、日常生活や就労に支障をきたしている可能性があります。
さらに 6つ以上 該当する場合は、発達障害やうつ病など、医療的な要因が影響している可能性も視野に入れましょう。
「苦手をどう補うか」「どんなサポートがあれば働きやすくなるか」を明確にすることが、次の一歩につながります。
不安を感じたら、まずは専門の医療機関や相談窓口で話をしてみることから始めてみてください。